糖尿病

2012.01.31更新

炭水化物は糖尿病を悪化させるだけでなく老化を早める・・・その1

抗加齢医学の分野では、糖質や精製された炭水化物の消費はインスリンの分泌を刺激して、老化の進行を劇的に加速するというコンセンサスが得られており、砂糖を「白い悪魔」と呼んでいる研究者もいるほどです。インスリンは副腎皮質ステロイドと並んで老化を促進するホルモンなのです。
アメリカの抗加齢医学のリーダーの一人であるテリー・グロスマン博士は、その著書の中で次のように述べています。「ほとんどの人は 食事中の脂肪の方が糖分よりずっと問題だと信じている。自分が肥満しているのは脂肪の摂り過ぎが原因だと思っている。しかし多くの場合、肥っているのは脂肪を摂る量が少なすぎるからである。低脂肪食のマニアが約15年前にアメリカに出現して以来、肥満の発生率は32%にまで達している。国中で「大多数の」成人がかなり肥り過ぎである。習慣性を持つ食料、つまり糖分ほどこの問題に貢献しているものはない。」
この文章は、1985年ごろからアメリカで盛んになった低脂肪ダイエットのを批判したものです。脂肪は人に満腹感を与える唯一の栄養素なので、脂肪を減らすと頻繁に空腹を覚えるようになり、ついスナックとして糖分の多い食品を食べてしまう。こうした理由で、低脂肪ダイエットがかえって肥満を増やす結果になったわけです。・・・(次回に続く)

2012.01.11更新

糖尿病と癌・・・その3

1月4日と6日のブログでは、糖尿病と癌の関係についてお話してきました。まとめると、「糖尿病のコントロールが不良で、高血糖や高インスリン血症がおこれば、癌が増える。一方、糖尿病の治療薬でも多くの場合癌が増える。さらに、食後高血糖や高インスリン血症を抑えるための糖質制限(低炭水化物)食でも、動物性脂肪・蛋白質に偏り過ぎると癌が増える」、ということになります。こう書くと八方ふさがりのようではあります。しかし、糖質制限(低炭水化物)食は高血糖、高インスリン血症を改善し、糖尿病治療薬を減らすことにつながるわけですから、摂取する脂肪・蛋白質の質にさえ注意すれば、癌を減らす方向に働くと考えられます。従来の「高炭水化物低カロリー食」が食後高血糖を引き起こし、インスリンの追加分泌を刺激するのとは対照的です。

ハーバードの研究者たちの「動物性脂肪・蛋白質を中心とした糖質制限食が癌による死亡を増やす」という論文を読んだ後も、私が患者さんに糖質制限(低炭水化物)食をお勧めする理由はここにあります。

2012.01.04更新

糖尿病と癌・・・その1

明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

さて、前回までは、動物性脂肪・蛋白質に偏った糖質制限(低炭水化物)食が癌による死亡を増加させる可能性についてお話してきました。
一方、糖尿病による高血糖や高インスリン血症が発癌や癌による死亡を増加させるという研究結果もいくつか出てきています。

昨年6月には、九州大学の平川先生が、久山町で行った約2500人を対象とした前向きコホート研究の結果を米国糖尿病学会で発表されました。
これによれば、空腹時血糖が100mg/dl未満の人が癌で死亡する危険度を1とした場合、空腹時血糖値が高くなるほど癌で死亡
する危険度は高くなり、126mg/dl以上の人では危険度は2.1まで上昇していました。また、食後血糖が120mg/dl未満の人の危険度を1とすると、200mg/dl以上の人では危険度は2.0まで上昇していました。
この研究からは、空腹時血糖も食後血糖も高いほど、癌で死亡する確率は高くなるという結果が得られました。

また、2007年には国立がん研究センターから、「高インスリン血症が、日本人男性において明らかに大腸癌発症のリスクを高める」という報告がなされています。

また、食後高血糖が膵癌発症のリスクを高めるという海外の報告もいくつか見られます。

このように、糖尿病自体に起因する高血糖や高インスリン血症と発癌のリスク増加を結びつけるエビデンス(証拠)が次々と明らかになっています。

次回は、糖尿病治療薬と癌との関係について考えてみたいと思います。

 

2011.12.25更新

健康長寿のための糖質制限(低炭水化物)食・・その3

我々日本人が糖質制限(低炭水化物)食を実践する際に、赤肉(豚肉、牛肉、羊肉など)の摂取量の増加や摂取する脂肪酸の質の低下を招かないようにするにはどうしたらよいでしょうか?私は、有名な「地中海ダイエット」の中にこの問題を解決するヒントがあると考えています。

地中海ダイエットとは、昔から長寿の人が多いことで知られていた地中海沿岸地域の伝統的な食事スタイルです。野菜、果物、ナッツ類、豆類、精製度の低い穀類(全粒粉のパン・パスタなど)を多く摂取し、魚、鶏肉、乳製品を中等量摂取し、適量のワインを食事とともに摂取します。赤肉、卵の摂取は減らします。オリーブオイルを主要な油脂として日常的に使用します。2008年には、イタリアの研究者たちによって、「地中海ダイエットを忠実に実践すると、総死亡、心臓病や脳卒中による死亡、癌になるリスク、癌による死亡、パーキンソン病とアルツハイマー病にかかるリスクが全て低下する」という研究成果が発表されました。

こうした結果をふまえて、地中海ダイエットの考え方を採り入れれば、赤肉の摂取量の増加や脂肪酸の質の低下を招くことなく、植物性脂肪・蛋白質を軸とした糖質制限(低炭水化物)食が実現できると、私は考えています。但し、地中化ダイエットでは果物や精制度の低い穀物などの炭水化物の摂取量がやや多い(総カロリーの50~60%) ので、糖質制限(低炭水化物)食とするためにはこれらを減らし、その分脂肪、蛋白質を増やさなければなりません。また、主要な油脂がオリーブオイルのみというのも日本人にはなじみにくいでしょう。そこで、大豆製品(納豆、豆腐、あげ、豆乳、ゆば、おからなど)採り入れたらどうでしょうか。特に、豆腐は、冷奴や湯豆腐にすれば肉料理などの濃い味や脂気を中和することができ、主食のかわりになりうる食品だと思います。また、加熱用の油脂として、オリーブオイル以外に、比較的脂肪酸組成が似ているなたね油やごま油、非加熱用(ドレッシングなど)の油脂としてはω3脂肪酸を多く含有するえごま油などを利用するのもよいでしょう。また、動物性脂肪・蛋白質の中でも赤肉の比率を減らすために、魚の摂取を増やす必要があります。脂ののった魚を摂取することは、ω3脂肪酸の比率を増やすことにもつながります。このようにアレンジすれば和食志向の人にも受け入れられるのではないでしょうか

この方法は、嗜好の問題もあり、通常の食事よりもコストもかかるので、最初から全ての患者さんに適用できるとは思えません。
当院では、糖質制限(低炭水化物)食を始めていただく際には、とにかく炭水化物を目標レベルまで減らし、その分脂肪・蛋白質(動物性・植物性にこだわらない)を増やして食事の満足感を得ていただきながら治療効果を実感していただく、というポイントに集中して、シンプルな栄養指導を行っています。2回目以降の栄養指導で、糖質制限(低炭水化物)食が軌道に乗ってきたところで、植物性脂肪・蛋白質の摂取量を増加させ、良質な脂肪(ω3脂肪酸や一価不飽和脂肪酸)をより多く摂取していただくような指導を追加して、徐々に洗練された糖質制限(低炭水化物)食を完成させてゆきます。

治療効果が出て、薬の量が減り、通院回数や検査の頻度も減ってゆけば、食事のコストの増加分は医療費の減少分で十分に相殺できると考えています。

 

2011.12.23更新

健康長寿のための糖質制限(低炭水化物)食・・その2

12月18日のブログで、「動物性脂肪・蛋白質を中心とした糖質制限(低炭水化物)食では、通常のカロリー制限食に比べて総死亡、脳卒中や心臓病による死亡および癌による死亡は増加したが、植物性脂肪・蛋白質を中心とした糖質制限(低炭水化物)食では総死亡、脳卒中や心臓病による死亡は減少し、癌による死亡については同等であった」というハーバード大学の研究結果をご紹介しました。なぜこのような結果が出たのでしょうか?

冷静に考えてみると、欧米人に動物性脂肪・蛋白質を中心とする糖質制限(低炭水化物)食を実践させれば、赤肉(牛肉、豚肉、羊肉など)の摂取量が増えること、摂取する脂肪酸のなかで飽和脂肪酸の割合が増え不飽和脂肪酸(特にω3脂肪酸)の割合が減ることは容易に想像できます。
赤肉が総死亡、脳卒中や心臓病による死亡、癌による死亡を増加させること、飽和脂肪酸摂取量の増加が脳卒中や心臓病による死亡の増加につながることはほぼ証明されていますので、ハーバードの研究結果はむしろ当然の帰結と言えるのではないでしょうか。

では、我々日本人が糖質制限(低炭水化物)食を実践する際に、赤肉の摂取量の増加や、摂取する脂肪酸の質の低下を招かないようにするにはどうしたらよいでしょうか?次回は、この問題の解決策についてお話ししたいと思います。

2011.12.18更新

健康長寿のための糖質制限(低炭水化物)食・・その1

当院では、糖尿病、メタボリック症候群、脂質異常症、肥満の食事療法として糖質制限(低炭水化物)食に力を入れています。この方法は従来の総カロリーを制限する食事療法に比べて血糖・肥満度・脂質の改善に関しては有利であることは明らかになっています。
この方法の安全性に関する重要な研究結果が、昨年秋にハーバード大学から報告されました。その内容は「動物性脂肪・蛋白質を中心とした糖質制限(低炭水化物)食では、通常のカロリー制限食に比べて総死亡、脳卒中や心臓病による死亡、および癌による死亡が増加したが、植物性脂肪・蛋白質を中心とした糖質制限(低炭水化物)食では総死亡、脳卒中や心臓病による死亡は減少し、癌による死亡は同等であった。」というものでした。この結果は、安易な糖質制限に警鐘を鳴らすものでありました。糖質制限(低炭水化物)食で血糖・脂質・肥満が改善したとしても、寿命が縮まってしまっては意味がないわけです。そこで、摂取する脂肪・蛋白質の内容が問題になってきます。
現代の食生活では、糖質を制限して、その分脂肪や蛋白質の摂取量を増やすという食事療法を行った場合、どうしても肉食が増え、摂取する脂肪の内容が動脈硬化を促進させる方向(すなわち、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸が増える方向)に偏りがちです。
当院では、単に炭水化物を制限して、脂肪・蛋白質の摂取量を増やすというだけでなく、その脂肪・蛋白質が動物性のものに偏らないような栄養指導を心がけています。植物性脂肪・蛋白質を十分に摂取し、動物性脂肪・蛋白質についても、肉と魚のバランスが取れた糖質制限(低炭水化物)食の確立が最終的な目標です。それは、単に糖尿病やメタボリック症候群の食事療法にとどまらず、一生を通じて実践できる、健康長寿のための食習慣と言えるものになると思います。

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