貧血とは
血液の中の赤血球の数や、ヘモグロビン(赤血球中にある酸素を運搬する働きを持つタンパク質)の量が減少することによって、全身の組織への酸素の供給が不十分になった状態を貧血と言います。
貧血は以下のような様々な原因で起こりますが、その中には命を脅かす病気も含まれていますので、原因をはっきりさせておくことが大切です。
1.鉄欠乏性貧血
貧血の原因として最も多いのは鉄欠乏性貧血です。鉄はヘモグロビンに含まれる赤い色素の重要な成分ですので、鉄が不足するとヘモグロビンが十分に作られなくなり、酸素を運搬する能力の低い赤血球が作られるようになります。
生理のある女性は月経時の出血による鉄の喪失量と食事等からの鉄の摂取量のバランスが崩れて”喪失量>摂取量”となり、鉄欠乏性貧血になる事が多いです。
男性や閉経後の女性の鉄欠乏性貧血の原因として最も多いのは消化管出血です。消化管出血は胃・十二指腸潰瘍や大腸ポリープなどの良性疾患でも起こりますが、胃がん・大腸がんなどの悪性疾患が原因となっていることもあるので注意が必要です。
真っ黒な便(タール便)が出る、便に血が混じる、便潜血検査が陽性になるなどの症状があれば胃カメラ、大腸カメラなどの精密検査が必要です。
2.鉄以外の栄養欠乏
胃切除や萎縮性胃炎に伴うビタミンB12の欠乏、多量の飲酒や栄養障害に伴う葉酸の欠乏、銅の欠乏などが貧血の原因となります。
3.慢性疾患に伴う貧血
慢性腎臓病(CKD)、 関節リウマチ、甲状腺疾患などの慢性の病気に伴う貧血です。貧血の原因の30%程度を占めています。
4.上記1~3の原因が除外できた場合には再生不良性貧血、白血病、多発性骨髄腫などの血液疾患を考えます。
貧血でよくある症状
動悸、息切れ、倦怠感、疲れやすい、顔色が悪いなどの症状があれば貧血かもしれません。これらの症状は体内の各組織に酸素が十分に行き渡らないために起こります。さらに進行すると、頭痛、めまい、気が遠くなる感じ、運動中の筋肉のけいれんや胸の痛みなどの症状が出てきます。
鉄欠乏性貧血では口内炎や舌炎が起こりやすい、味覚障害、爪が割れやすい、髪が抜けやすい、肌荒れなどの症状が特徴です。
巨赤芽球性貧血では、手足の末端のしびれや痛み、抑うつ症状や記憶障害などの神経症状が見られることがあります。
再生不良性貧血では赤血球だけでなく白血球や血小板も減少するので、白血球が減ることによる感染症の症状(発熱、咳など)や血小板が減ることによる出血症状(歯肉出血、鼻出血、あざができやすい)を伴います。
このように、貧血では多彩な症状がみられますので、当てはまる症状があれば当院にご相談ください。
貧血の検査と診断
貧血を最も簡易に診断できる検査項目は血液中のヘモグロビン濃度です。男性で13.0g/dl 未満女性で12.0g/dl未満の場合に貧血と診断されます。同時に赤血球数やヘマトクリット値(全血液量に占める赤血球の割合)を測定することにより貧血の原因の推測に役立ちます。
さらに、貧血の原因を明らかにするために、鉄分の充足度を表す血清フェリチン濃度、骨髄での赤血球の生成を促すビタミンB12、葉酸の血中濃度などを測定します。再生不良性貧血では、赤血球だけでなく白血球、血小板も減少します。
鉄欠乏性貧血では、フェリチン濃度は低下しているもののヘモグロビン濃度や赤血球数は正常に保たれていることがあります。このような場合でも血清フェリチン濃度が30 ng/mLを切ると、貧血の症状が出現することが多いのです(隠れ貧血)。
隠れ貧血は生理のある女性に圧倒的に多いです。毎月の生理出血で一定量の赤血球を失うのと同時に、赤血球中のヘモグロビンに含まれていた鉄も失うことになります。食事でこの喪失分を補えるとよいのですが、食物中の鉄は吸収率が低いため、十分に補えない場合が多いのです。その結果として隠れ貧血の状態になります。
以下のような症状がある場合には隠れ貧血の可能性がありますので、当院にご相談ください。
・疲れやすい ・なんとなく気分が落ち込む、イライラしやすい ・めまい、立ちくらみが多い ・頭痛、肩こりで悩んでいる ・筋力が低下している ・知らないうちにあざができている ・ノドに物がつかえる感じがする、薬がのみにくい ・シミができやすい ・生理中やその前後に体調が悪くなる ・生理出血が多い |
貧血の治療
貧血を予防するためにはバランスの取れた食生活が重要です。タンパク質、鉄、ビタミンB12,葉酸は赤血球の材料となるので肉、魚、大豆、乳製品、ビタミン・ミネラルの豊富な野菜や海藻類をバランスよく摂取することが大切です。
いったん貧血の状態になってしまったら、薬物療法が必要です。
鉄欠乏性貧血では鉄剤あるいは鉄のサプリメントを服用します。鉄の吸収を促進するため、ビタミンCを薬やサプリメントで補給するのも有効です。
巨赤芽球性貧血ではビタミンB12や葉酸を薬やサプリメントで補います。
文責:小早川医院 院長 小早川裕之