2011.12.25更新
健康長寿のための糖質制限(低炭水化物)食・・その3
我々日本人が糖質制限(低炭水化物)食を実践する際に、赤肉(豚肉、牛肉、羊肉など)の摂取量の増加や摂取する脂肪酸の質の低下を招かないようにするにはどうしたらよいでしょうか?私は、有名な「地中海ダイエット」の中にこの問題を解決するヒントがあると考えています。
地中海ダイエットとは、昔から長寿の人が多いことで知られていた地中海沿岸地域の伝統的な食事スタイルです。野菜、果物、ナッツ類、豆類、精製度の低い穀類(全粒粉のパン・パスタなど)を多く摂取し、魚、鶏肉、乳製品を中等量摂取し、適量のワインを食事とともに摂取します。赤肉、卵の摂取は減らします。オリーブオイルを主要な油脂として日常的に使用します。2008年には、イタリアの研究者たちによって、「地中海ダイエットを忠実に実践すると、総死亡、心臓病や脳卒中による死亡、癌になるリスク、癌による死亡、パーキンソン病とアルツハイマー病にかかるリスクが全て低下する」という研究成果が発表されました。
こうした結果をふまえて、地中海ダイエットの考え方を採り入れれば、赤肉の摂取量の増加や脂肪酸の質の低下を招くことなく、植物性脂肪・蛋白質を軸とした糖質制限(低炭水化物)食が実現できると、私は考えています。但し、地中化ダイエットでは果物や精制度の低い穀物などの炭水化物の摂取量がやや多い(総カロリーの50~60%) ので、糖質制限(低炭水化物)食とするためにはこれらを減らし、その分脂肪、蛋白質を増やさなければなりません。また、主要な油脂がオリーブオイルのみというのも日本人にはなじみにくいでしょう。そこで、大豆製品(納豆、豆腐、あげ、豆乳、ゆば、おからなど)採り入れたらどうでしょうか。特に、豆腐は、冷奴や湯豆腐にすれば肉料理などの濃い味や脂気を中和することができ、主食のかわりになりうる食品だと思います。また、加熱用の油脂として、オリーブオイル以外に、比較的脂肪酸組成が似ているなたね油やごま油、非加熱用(ドレッシングなど)の油脂としてはω3脂肪酸を多く含有するえごま油などを利用するのもよいでしょう。また、動物性脂肪・蛋白質の中でも赤肉の比率を減らすために、魚の摂取を増やす必要があります。脂ののった魚を摂取することは、ω3脂肪酸の比率を増やすことにもつながります。このようにアレンジすれば和食志向の人にも受け入れられるのではないでしょうか
この方法は、嗜好の問題もあり、通常の食事よりもコストもかかるので、最初から全ての患者さんに適用できるとは思えません。
当院では、糖質制限(低炭水化物)食を始めていただく際には、とにかく炭水化物を目標レベルまで減らし、その分脂肪・蛋白質(動物性・植物性にこだわらない)を増やして食事の満足感を得ていただきながら治療効果を実感していただく、というポイントに集中して、シンプルな栄養指導を行っています。2回目以降の栄養指導で、糖質制限(低炭水化物)食が軌道に乗ってきたところで、植物性脂肪・蛋白質の摂取量を増加させ、良質な脂肪(ω3脂肪酸や一価不飽和脂肪酸)をより多く摂取していただくような指導を追加して、徐々に洗練された糖質制限(低炭水化物)食を完成させてゆきます。
治療効果が出て、薬の量が減り、通院回数や検査の頻度も減ってゆけば、食事のコストの増加分は医療費の減少分で十分に相殺できると考えています。
2011.12.23更新
健康長寿のための糖質制限(低炭水化物)食・・その2
12月18日のブログで、「動物性脂肪・蛋白質を中心とした糖質制限(低炭水化物)食では、通常のカロリー制限食に比べて総死亡、脳卒中や心臓病による死亡および癌による死亡は増加したが、植物性脂肪・蛋白質を中心とした糖質制限(低炭水化物)食では総死亡、脳卒中や心臓病による死亡は減少し、癌による死亡については同等であった」というハーバード大学の研究結果をご紹介しました。なぜこのような結果が出たのでしょうか?
冷静に考えてみると、欧米人に動物性脂肪・蛋白質を中心とする糖質制限(低炭水化物)食を実践させれば、赤肉(牛肉、豚肉、羊肉など)の摂取量が増えること、摂取する脂肪酸のなかで飽和脂肪酸の割合が増え不飽和脂肪酸(特にω3脂肪酸)の割合が減ることは容易に想像できます。
赤肉が総死亡、脳卒中や心臓病による死亡、癌による死亡を増加させること、飽和脂肪酸摂取量の増加が脳卒中や心臓病による死亡の増加につながることはほぼ証明されていますので、ハーバードの研究結果はむしろ当然の帰結と言えるのではないでしょうか。
では、我々日本人が糖質制限(低炭水化物)食を実践する際に、赤肉の摂取量の増加や、摂取する脂肪酸の質の低下を招かないようにするにはどうしたらよいでしょうか?次回は、この問題の解決策についてお話ししたいと思います。
2011.12.18更新
健康長寿のための糖質制限(低炭水化物)食・・その1
当院では、糖尿病、メタボリック症候群、脂質異常症、肥満の食事療法として糖質制限(低炭水化物)食に力を入れています。この方法は従来の総カロリーを制限する食事療法に比べて血糖・肥満度・脂質の改善に関しては有利であることは明らかになっています。
この方法の安全性に関する重要な研究結果が、昨年秋にハーバード大学から報告されました。その内容は「動物性脂肪・蛋白質を中心とした糖質制限(低炭水化物)食では、通常のカロリー制限食に比べて総死亡、脳卒中や心臓病による死亡、および癌による死亡が増加したが、植物性脂肪・蛋白質を中心とした糖質制限(低炭水化物)食では総死亡、脳卒中や心臓病による死亡は減少し、癌による死亡は同等であった。」というものでした。この結果は、安易な糖質制限に警鐘を鳴らすものでありました。糖質制限(低炭水化物)食で血糖・脂質・肥満が改善したとしても、寿命が縮まってしまっては意味がないわけです。そこで、摂取する脂肪・蛋白質の内容が問題になってきます。
現代の食生活では、糖質を制限して、その分脂肪や蛋白質の摂取量を増やすという食事療法を行った場合、どうしても肉食が増え、摂取する脂肪の内容が動脈硬化を促進させる方向(すなわち、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸が増える方向)に偏りがちです。
当院では、単に炭水化物を制限して、脂肪・蛋白質の摂取量を増やすというだけでなく、その脂肪・蛋白質が動物性のものに偏らないような栄養指導を心がけています。植物性脂肪・蛋白質を十分に摂取し、動物性脂肪・蛋白質についても、肉と魚のバランスが取れた糖質制限(低炭水化物)食の確立が最終的な目標です。それは、単に糖尿病やメタボリック症候群の食事療法にとどまらず、一生を通じて実践できる、健康長寿のための食習慣と言えるものになると思います。