2015.04.24
認知症治療に抗精神病薬が使えなくなる?!
数週間前に、日本老年医学会が「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2015」の案を発表しました。この中で認知症高齢者の陽性症状をコントロールするために我々コウノメソッド実践医が用いてきた抗精神病薬は中止が望ましいという記述があります。これらを中止して代わりに抑肝散をつかいましょう、ということのようです。抑肝散はレビー小体型認知症にはよく効きますが、その他の陽性症状には無効であることが多いのは、認知症を本気で治療している医師ならだれでも知っている事実です。
この案が、正式なガイドラインとして発表されれば、多くの施設でこれらの薬が強制的に中止され、急激に悪化した認知症高齢者の入院が急増し、入院しきれない患者さんのために多くの家族が崩壊するという事態になるでしょう。
このような事態を何としても阻止したいと考え、先日老年医学会にパブリックコメントとして以下のような反対意見を送りました。多くの反対意見が集結し、ガイドラインの案が良い方向に修正されることを祈るばかりです。
「高齢者の診療に携わる者として、今回のガイドライン(案)に関して意見を述べさせていただきます。
私は内科開業医として多くの認知症高齢者の治療にあたっています。認知症の患者さんの介護者は、中核症状よりもむしろ周辺症状に悩まされています。徘徊や暴言、暴力、介護抵抗、易怒などの陽性症状が出てくると、介護者は片時も目を離すことができず、疲弊します。こうした陽性症状に対していわゆる中核薬は有効でない場合が多いというのが臨床現場での実感です。中核薬の投与により陽性症状が悪化し、かえって介護者の負担が増えてしまうケースが多いのです。そこで、私は以前から、陽性症状をコントロールするために抗精神病薬の少量投与を行い、有効例を数多く経験してきました。もちろん常用量は高齢者には危険ですが、常用量の3分の1~10分の1程度の少量を慎重に用いれば、副作用を出さずに患者さん本人と介護者を共に救うことができると確信しております。特に認知症医療においては、介護者の負担を軽減することは、良質な介護を継続していくためにも非常に重要な要素であり、単にエビデンスだけで割り切れるものではないと考えます。
以上のような理由から、今回のガイドラインが認知症高齢者に対する抗精神病薬の処方中止を強制するものであってはならないと考えます。処方中止を強制すれば、今まで抗精神病薬の少量投与で陽性症状がコントロールされていた症例が急激に悪化し、入院や施設入所が急増することが予想され、生命予後も悪化すると考えられます。
是非とも現場の切実な声に耳を傾けていただき、認知症高齢者に対する抗精神病薬の投与中止を強制するようなニュアンスを今回のガイドラインから排除していただきたく、お願い申し上げる次第です。」
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