2012.12.23
グルカゴン・ルネッサンス!(糖尿病治療におけるグルカゴンの重要性)
先日、東京で順天堂大学の河盛隆造先生の講演を聴く機会がありました。
河盛先生は大阪大学で人工すい臓の研究に携わってこられた方で、常に日本の糖尿病研究の最先端を走っておられます。
先生のお話は何度もうかがっているのですが、理論的かつ情熱的な名調子で、何度聞いても引き込まれてしまいます。
先生は以前から血糖値は「糖の流れ」で決まると強調されています。
食後、食物中の炭水化物は速やかに分解されてブドウ糖となり、小腸から吸収されます。同時にすい臓のβ細胞からは速やかにインスリンが分泌されます。ブドウ糖とインスリンのカクテルが門脈という太い血管を通って肝臓に流れ込み、インスリンの作用によって肝臓にブドウ糖が取り込まれます。肝臓を通り抜けたブドウ糖により全身の血糖値が上昇しますが、インスリンの働きにより、ブドウ糖は筋肉や脂肪細胞に取り込まれ、速やかに血糖値は食事前の値に戻るのです。すい臓のα細胞から分泌されるグルカゴンは肝臓でインスリンと逆の働きをします。すなわち、肝臓からの糖の放出を増やし、血糖値を上げる方向に働きます。
以前はインスリンばかりが注目を集めていましたが、最近ではこのグルカゴンにもスポットが当たることが多くなりました。
血糖コントロールが不良な2型糖尿病の患者さんで、血中のグルカゴンレベルが上昇しているというデータもでてきており、グルカゴンも「糖の流れ」の調節に大きな役割をしていることがわかってきました。
今までは、血糖とインスリンレベルのコントロールだけに注目が集まっていましたが、河盛先生はグルカゴンのコントロールにも注意を払う必要があると述べられ、これを「グルカゴン・ルネッサンス」と表現されました。そしてDPP-4阻害薬、ビグアナイド系薬剤がグルカゴンのコントロールに有効であることも強調されました。
糖質制限(低炭水化物)食を実践している患者さんでも、早朝空腹時血糖が下がらない方が時々おられます。
当院で推奨しているマイルドな糖質制限では、通常夕食の炭水化物を抜く代わりに脂質、蛋白質を多めにとりますが、多量の蛋白質の摂取が夜間のすい臓からのグルカゴン分泌を刺激している可能性があります。この場合、ビグアナイド系薬剤やDPP-4阻害薬で改善するのは良く経験することですが、河盛先生の講演はこれを理論的に裏付けるものでした。
現状では、糖質制限(低炭水化物)食でインスリン分泌刺激を最小限にしてすい臓のβ細胞への負荷をできるだけ軽減し、グルカゴンの分泌が高まるようであればビグアナイド系薬剤やDPP-4阻害薬でグルカゴン分泌を抑えるのが最も合理的な糖尿病治療であると考えています。
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