院長ブログ

2013.10.13更新

糖尿病発症の予防対策をどの時点で開始すべきか?・・EASDより(その7)

東京女子医大の田中先生らは、糖尿病の発症を推測するための、日本人における空腹時血糖値とHbA1c値の基準値を決めるための研究を行い、その成果を今回のEASDで発表しました。

対象は2006年2月から2007年1月の間に健康診断を目的に埼玉県済生会栗橋病院を受診した、空腹時血糖値が126mg/dl未満の3826人とHbA1c値が6.5%未満の2772人で、約4年間の観察期間の間に一度でも空腹時血糖値が126mg/dl以上、あるいはHbA1cの値が6.5%以上となった場合には糖尿病を発症したと判断しました。

この結果、糖尿病の発症を予測するための空腹時血糖値は100mg/dl, HbA1c値は6.0%であり、これらの値を超えてきた場合には早急に食事療法、運動療法などの発症予防のための対策を講ずる必要があるという結論が得られました。

この値は、我々開業医の臨床的感覚とも一致しており、実用的な基準値であると思います。実際に、このような値の方が、数年後に糖尿病を発症されるのをよく経験します。

健康診断や人間ドックでは、空腹時血糖の正常値は109以下、HbA1cの正常値は6.2以下となっていることが多いと思いますが、たとえこの範囲に入っていたとしても、上記の基準値を超えてきた場合には糖尿病の発症の危険性が高まっていると判断して、早めに医療機関に受診されることをお勧めします。

ミラノのスカラ座、ウィーンのオペラ座と並ぶヨーロッパ三大歌劇場
の一つであるリセウ大劇場のエントランス
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2013.10.11更新

「体脂肪量」の増加は2型糖尿病の発症リスクを高める!・・EASDより(その6)

韓国のSoonchunhyang University の C.H.Kim先生らは、体脂肪量の増加が2型糖尿病の発症リスクを高めるという研究成果を発表しました。

対象は糖尿病を発症していない20歳から79歳までの1万8687人で、観察期間は平均4.3年です。この期間内に692人(3.7%)が2型糖尿病を発症しました。

2型糖尿病を発症した群は発症しなかった群よりも、観察期間内の体脂肪量の増加が有意に大きかったのですが、体重やBMIの変化量については、この2つの群の間で有意な差はありませんでした。

Kim先生は「2型糖尿病の発症リスクは、もともと肥満しているか否かにかかわらず、体脂肪量の増加で有意に高まることが示された。2型糖尿病の発症予防の観点からは、特に体脂肪量の変化に注意することが必要だ」と結論付けました。

ちょっとくどいですが、池の水面に映った、夜のサグラダ
・ファミリア聖堂です。(昼よりも数段美しいです)
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2013.10.08更新

80歳以上の2型糖尿病にも欧米での第一選択薬は安全で有効(EASDより・・その5)

80歳以上の超高齢者への2型糖尿病治療薬の使用法はまだ確立されておらず、世界の糖尿病治療ガイドラインにも具体的な記述はありません。欧米で2型糖尿病治療の第一選択薬となっているお薬の使用法についても議論が分かれているのが現状です。

ポーランドのMedical University of Lodz の L. Czupryriak 氏らは、年齢が80歳から90歳の2型糖尿病患者さん158人(高齢群)と60歳から70歳の2型糖尿病患者さん112人(対照群)を選び、後ろ向きに3年間追跡しました。

高齢群と対照群の当該薬剤の服用率は、それぞれ62%と82%でした。平均HbA1c値は7.1%と7.8%であり、高齢群で有意に低値でした。低血糖の平均発症率も、それぞれ21%と45%であり、高齢群は対照群の半分以下でした。
一方、血清クレアチニン価については、高齢群が1.19mg/dlに対して対照群は1.02mg/dlと高齢群の方が腎機能がやや低下していました。

脂質に関しても、LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪、全てにおいて高齢群の方が良好な結果でした。

以上よりCzupryriak 氏らは、80歳以上の超高齢者でも当該薬剤の投与は安全かつ有効であると結論付けています。

この研究の内容は、我々の臨床的感覚とも良く一致しています。最終的な結論は、より大規模な研究の成果をまたないといけないとは思いますが、現状ではこのお薬は80歳以上の高齢者にも安全に使える薬といえそうです。

またまたメルセ祭からのひとコマ・・様々な民族衣装をまとった
巨大な人形がバルセロナ市庁舎前の広場を練り歩きます
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2013.10.05更新

喫煙はやはり糖尿病発症の危険因子!・・EASDより(その4)

喫煙は2型糖尿病の危険因子とされていますが、飲酒、コーヒーの摂取、運動不足など、様々な非健康的な生活習慣が喫煙と関連しており、それらの影響を十分に考慮した研究はほとんどありません。

オランダのNational Institute for Public Health and the Environment の A.M.W.Spijkerman 先生らは、約24000人のデータを分析し、年齢、教育レベル、身体活動量、飲酒量、コーヒーの摂取量、肉の摂取量、BMIの影響を除外しても、喫煙は明らかに糖尿病発症のリスクを高めるという結論に達しました。

やはり、糖尿病予防のためには禁煙は必須であると言えそうです。

写真はバルセロナの誇る世界遺産の一つ、「カタルーニャ音楽堂」
です。世界遺産とはいっても、今でも定期的にクラシックコンサート
行われる現役のコンサートホールなのです。
このあたりに、ヨーロッパ文化の懐の深さを感じます。
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2013.10.04更新

低血糖発作後1週間は血栓が形成されやすい!・・EASDより(その3)

有名な大規模研究であるACCORD試験では、2型糖尿病の薬物療法で厳格な血糖コントロールを目指すと、かえって死亡率が上昇することが確認されましたが、その原因が低血糖である可能性が指摘されています。

英国のシェフィールド大学のElaine Y.K.Chow氏らは、この問題を検証するため、10人の糖尿病患者さんでインスリンクランプ法(静脈からインスリンを注入しながら同時にブドウ糖を注入し、一定の血糖値を維持する方法)を用いて、低血糖の状態を実験的に作り出し、低血糖が血栓形成や血管の炎症にどのような影響を与えるかを調べました。

この結果、低血糖が起きた後、最低でも1週間は、血管内で血栓の形成が促進され、血管の炎症が引き起こされると考えられました。「低血糖発作」というと一時的な症状のように聞こえますが、実は低血糖は長時間にわたって血管が詰まりやすい状態を作り出すのだということがわかります。

たとえ1回でも低血糖を起こさない糖尿病治療が求められています。

写真はホテルの窓から見た、バルセロナ中心部の街並みです
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2013.10.01更新

糖尿病治療薬が糖尿病の発症を予防する?・・EASDより(その2)

Mというお薬は、2型糖尿病の第一選択薬として全世界で使用されています。50年以上の歴史がある薬で重大な副作用が少ないこと、インスリン抵抗性を改善して血糖を低下させる作用があることが証明されている一方、薬価は安いので、非常にコストパフォーマンスの良い治療薬といえます。

今回のEASDでも、このお薬に関する発表が数多くみられました。中でも注目を集めていたのが、ブルガリアのソフィア大学の Petya Kamenova先生の研究です。

52人の高インスリン血症のあるメタボリックシンドロームの患者さんに1年間当該薬剤を投与したところ、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)・中性脂肪が低下し、HDLコレステロール(善玉コレステロール)は上昇しました。血糖値は徐々に低下し、インスリン抵抗性も改善しました。

これらの結果からPetya先生は、「高インスリン血症のあるメタボリックシンドロームの患者さんでは、当該薬剤が心血管病(脳卒中、狭心症、心筋梗塞など)のリスクを低下させ、さらにはインスリン抵抗性を改善させることにより2型糖尿病の発症を予防する可能性がある」とまとめられました。

Mの新たな可能性を示す、興味深い発表でした。

学会期間中に、バルセロナでは「メルセ祭」という市を挙げての
大きなお祭りが開催されていました。
下の写真は、メルセ祭のメインイベントである「人間の塔」です。
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2013.09.30更新

糖尿病の低血糖と高血糖はいずれも脳萎縮と関連・・EASDより(その1)

今日から数回にわたって、ヨーロッパ糖尿病学会(EASD)で発表された興味深い研究成果をいくつかご紹介したいと思います。

第一回目は、糖尿病患者さんの高血糖と低血糖が、アルツハイマー型認知症の原因となる脳の「海馬」という部分の萎縮をどの程度進行させるかについての研究です。これは日本人による発表でした。

大阪府の藍野病院の吉田先生らは、60歳以上の2型糖尿病の患者さん121人の海馬の萎縮の程度をMRIを用いて5年間追跡しました。その結果からこの121人の患者さんを、明らかに海馬の萎縮の進行が見られた群(萎縮群)と進行が見られなかった群(非萎縮群)の2群に分けて比較したところ、次のようなことがわかりました。

①萎縮群は非萎縮群に比べて高齢であった。

②萎縮群は非萎縮群に比べて食後2時間の血糖値が高かった。

③萎縮群は非萎縮群に比べて低血糖発作の回数が多かった。

④萎縮群は非萎縮群に比べて内臓脂肪が多かった。

これらの事実から吉田先生らは、「糖尿病では高血糖、低血糖のいずれも認知症の進行と関連しており、認知症の予防の意味からも、適切な血糖値を維持することが極めて重要である。」とまとめています。

「適切な血糖値」の範囲が難しいわけですが、いずれにせよ血糖の変動をできる限り小さくすること、そして食後高血糖を防ぐことが認知症の予防につながるのではないかという印象を受けました。

写真は有名なガウディのサグラダ・ファミリア聖堂の夜景です
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2013.09.28更新

ヨーロッパ糖尿病学会(EASD)に参加してきました

9月23日からスペインのバルセロナで開催されたヨーロッパ糖尿病学会(EASD)に参加してきました。
この学会は今年で49回目を迎える歴史ある学会で、アメリカ糖尿病学会と並んで、世界の糖尿病治療の方向性に大きな影響力を持つ重要な学会です。
今回も、全世界の130以上の国から18000人もの臨床医や研究者が集まりました。

プログラムを概観すると、DPP4阻害薬など最新の糖尿病薬をテーマとした演題が数多く出されている一方で、食事療法や運動療法に関する演題も目立っていました。糖質制限食に関するものも散見されました。
また、アメリカ糖尿病学会の流れを受けて、「低血糖と高血糖、どちらが問題か?」といったディベートがあったり、「糖尿病と認知症」、「糖尿病と癌」といった幅広い演題が見られたのが今回の特徴です。
糖尿病治療が一つの転換期を迎えているのを象徴する学会でした。

次回から何回かに分けて、私が興味をひかれた演題についてお話ししたいと思います。

2013.09.17更新

4種類の「慢性胃炎」

検診の結果を見ているとよく「慢性胃炎」という言葉が出てきます。「慢性胃炎」といわれて漫然と胃薬を続けている方も多いようです。わが国の「慢性胃炎」には大きく分けて次の4種類が含まれています。

①ピロリ菌の感染によって起こった胃炎(病理組織で証明されたもの)

②内視鏡検査などで胃の粘膜がただれている状態・・内視鏡的胃炎

③胃が痛い、もたれるなどの自覚症状で定義される胃炎

④保険病名としての慢性胃炎

これらの内で必ず治療が必要なのは①と③です。①のピロリ菌による胃炎は、除菌治療を行うことにより症状が改善し胃がんの危険性も大幅に低下します。③は機能性ディスペプシアと言われるもので、投薬により症状がコントロールできます。

検診の胃バリウム検査などで「慢性胃炎」といわれたら、必ず医療機関で診察を受けましょう。あなたの「慢性胃炎」が上の4つの内どれに相当するかを明らかにしてもらう必要があるからです。そのために、胃カメラやピロリ菌の検査が必要になることもあります。

2013.09.16更新

軽度認知機能障害(MCI)

認知症と加齢によるもの忘れの中間にあたるものが軽度認知機能障害(MCI)です。日本のブレインバンクの報告によると、MCIの高齢者56例の病理組織には、アルツハイマー型認知症は19%しか含まれておらず、脳血管障害やレビー小体型認知症など様々な疾患が見られたとのことです。

したがって脳内アセチルコリンしか増やさない薬だと、MCIの人の一部にしか効かないということになり、ドパミンとアセチルコリン両方を増やすお薬の方が、認知症が発症するのを予防できる確率が高いと考えられます。

一方、イチョウ葉エキスやビタミンEについては、認知症予防に効果がないという報告が増えています。

それらに代わって、フェルラ酸含有食品(フェルガード)が注目されています。動物実験で老人斑の形成を予防したり、動物の認知機能を向上させたりする作用が科学的に証明されており、臨床的にも有効性を示す論文が数多く発表されています。

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